でも恐怖に硬直しかけている身体では、転げるようにするのが精一杯で。


一心不乱に逃げ出そうとして勢い余った私は、手をついた先にもうベッドがないことに気が付かなかった。

手が空を切ったと理解した時には、上半身から床に向かって傾いでいく。



ぶつかる!

ぎゅっと目を閉じて衝撃に備える。


けど。




「全く、危ないなあ。
何もしないから、そんなに怖がらないで」



腰に何かが巻き付いて、私は後ろへ引き戻されていた。


背中一杯に感じる温度。
うなじにかかる息。



すぐに少女漫画でお約束のあの展開だと悟る。

でも私は一切ときめかないどころか、むしろ恐怖に心臓が嫌な音をたてた。



嫌っ!気持ち悪い!


喉の奥から嫌悪感が込み上げて、声も出せずに私は暴れた。



「落ち着いて。ほら、大丈夫だから」