「――ぁあっ」



気が付けば、私は柔らかい何かの中で溺れるようにもがいていた。


助けて、柚子っ!



相変わらず馬鹿みたいに柚子の助けを求めて、必死に手を伸ばせば。

――今度こそ、掴み取ることができた。



ああ、温かい人の手だ。

私は離すまいと、ぎゅっと力強く握る。

すると、その手にも力がこもった。



「ヴェレーナ姫」



けれど、耳元で聞こえた名前に、私の希望は一瞬にして奈落の底へ沈められてしまった。


反射的に目を開けば、すぐそこに見覚えのある金色の瞳。

もう見たくなかった顔だ。



「っ!?――嫌っ!」



とっさに、握られていた手を振り払う。

無意識のうちに逃げようと動き出すけど、何かが身体に絡み付いてうまく動けない。


その何かが真っ白いシーツだと気が付くのに時間はかからなかった。



「姫、落ち着いて」

「いや、いやっ」



私は何度もシーツに引っ掛かりながらも、広いベッドの上を這って逃げ出す。