珍しく怒りを露にする柚子の声も震えていて。


私はその言葉を、ああやっぱり…と頭の片隅で思いながら聞き、ケータイをぎりっと握りしめた。

直接鼓膜を震わせる電子音が、とても遠い。


下瞼の上で薄い膜を張っていた涙が、ぽろりと零れる。



『陽花…っ!一週間もどこほっつき歩いてんのよ……!』

「っ!?」



い、しゅうかん……?



私はその言葉を聞いた瞬間、来た道を走り出していた。


背後からリツィリアさんの呼び止める声が聞こえた。



嘘だ。嘘だ。嘘だ。

柚子と別れてからまだ一日だって経っていないのに。



「柚子っ!たす、けてっ……」

『だから場所を教えて!今すぐ行くから!』



場所?

私は走りながら、歪む視界の中で必死に辺りを見回した。


そこには、暗闇に続く廊下しかない。


柚子の家ではないなら、ここはどこなの?