主役。
私が主役――ううん、ヴェルが主役?


――違う。今日は親睦会のはずよ。



ヴェルが他国のお姫様だとしても、貴賓であって主役ではないはず。


今日の親睦会に主役がいるとすれば、柚子と誠司さんだ。

表向き彼らの婚約を期に、両社が提携をする訳だから、親睦会の主役というならあの二人しかいない。



いつまでも動こうとしない私を見かねたのか、彼は扉の両端に立っている使用人に目配せをし、扉を開けさせた。



ぎぎぎ、ぎ


あの時――ヴェルと出会った時の扉のように、地響きのような音を鳴らしてゆっくりと開く。



怖い。
あの暗闇の中での恐怖が甦る。

身体が情けなく震えだした。

でもその震えの原因はそれだけではない。



ここに柚子がいなかったら、私はどうすればいい?

ここが柚子の家じゃなかったら私、どうすればいいの?



中を見れば、柚子がいないという決定的な証拠を突き付けられてしまう。

そんな不安に似た恐怖が私を支配した。



「やめ…て……」



開けないで!と心の中では叫んでいるのに、やっとの思いで絞り出した声は情けなく震えていた。