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彼と静かな廊下を歩いていて分かったことが一つ。



それは彼の名前。


ぱらぱらと見かける道行く人々がみんな、彼を殿下やリツィリア様と呼んでいたから彼の名前はたぶん『リツィリア』なのだろう。

なんて変な名前…


それに、私たちを見るとすぐに廊下の脇に避けて丁寧すぎるぐらい深く頭を下げてくれる。

ちなみに私のことはヴェレーナ様と呼んでいた。
どうやらバレてはいないらしい。


…案外、簡単かも。



と拍子抜けしていたら、彼が到着を告げた。



「着いたよ。せっかくだし一曲踊らないかい?」

「いえ、遠慮しておき……」



…ます。と続く言葉は出なかった。


床から視線を上げた私の目が捉えたのは、



「…違う、ここじゃない……」



どんだけでかいんだと呆れてしまうぐらいの大きさで、でんっと私たちの前に立ちはだかる豪華な扉。

柚子の家のホールと似ているけど、もっと大きくて重厚でそして豪華だった。



「ん?ホールに行く途中ではなかったのかい?」



言葉を失ってぼーっとしている私に彼は不思議そうな表情。