私の失礼な態度に彼は困ったように苦笑いを一つ。


今さらそんな顔したって、"最低男"も"嘘つき"も剥がしてやんないんだから。



「一緒に行かないのかい?
それもいいけれど、君はまだこの城に慣れていないだろう。迷ってしまうよ」

「……」



それは言えている。
でも素直に認めたくない。

私はふいっとそっぽを向いて彼から目を逸らした。



「腕は組みません。私は好きな人じゃないと腕は組まないって決めているんです」

「はは、そうか。それは残念だ」



最後の方は嘘っぱちだったけど、彼はさして残念そうでない様子で小さく笑った。

そして彼の手が私の手首から何気なく指先へと移り、優雅に落とされるキス。



「っ!ちょっと!」



驚いて手を引っ込めれば、彼は軽やかに足を踏み出した。

その横顔はイタズラが成功した子供のようだった。



「では、ホールはこちらですよ。ヴェレーナ姫」



慣れない行為に顔が熱い。


全く、なんて最低な男なの!


この数分間にもう何回も思ったことを頭の中で叫んで、私は赤くなった顔を誤魔化すように、足早に彼の背中を追いかけた。