それも人っ子一人いない場所ばかりで、道を聞くことすらできないという状況。



「はあぁぁ」



ついてない。
とことんついてない。


こんなことなら、家で大人しく受験勉強でもしてたら良かった。

今さら後悔しても遅いけど。



「帰りたい…」



静かで薄暗い廊下に私の言葉が吸い込まれる。



ケータイをポケットにしまい、私は再び歩を進めた。


慣れないピンヒールのせいで靴擦れしてしまった踵がずきずき痛むけど、まだ我慢できない程ではない。


窓から差す月明かりが床に規則的な四角形を何個もを描いていて、その上をひょいひょいと渡る。


と、その時。

いつまでも代わり映えせずに整然と並んでいた扉の中。
ある一つが隙間からオレンジ色の光を漏らしているのを見つけた。



「わっと」



一瞬気を取られて転びそうになったけど、なんとかバランスをとる。


慣れない物は履くもんじゃない、と心に改めて刻み付け、私は小走りでその扉へ近付いた。