ていうかさ、柚子がいるんだからすぐにバレるどころか身代わりになったことさえ気が付かれないと思うんですけど。


この提案は根本的なところから失敗してしまっている気がするのは私だけだろうか。



ヴェルに提案を取り下げてもらうべく、もう一度口を開きかけたその時。



「…ってことだからよろしく!」

「えっ!?ちょっと待って!」



ヴェルは満面の笑みを浮かべてお城と反対の方向へダッシュ。

そんな彼に声を大きくして叫ぶ。



「ヴェルっ!いつもとに戻るのー!?」



こうなったら仕方ない。やるしかないじゃん。

でもいつもとに戻るのか、まだ聞いてない!



「そのうち!大丈夫、ちゃんと戻ってくるからー!」



走りながらひらひらと手を振るヴェルは、それはそれは嬉しそうで。


そのうちって、だからいつなのさ。と心の中で悪態をつきながら、私は大きく息を吐き出した。



「ま、とりあえず柚子んのとこに行くか」



お城を見上げる。
なんだか不思議なことが起こりすぎて疲れてしまった。




――この時の私はまだ知らない。
この世界に柚子はいないってこと。私は独りだってことを。