暗闇に溶け込んでよく見える訳ではないけど、腰あたりまで波打つ黒髪。

コバルトグリーンのドレスはフリルをふんだんにあしらっていて。

しゃがんでいる彼のドレスの裾からちらりと見える足先は、明らかに女物のヒールだ。


うそ、女だったんだ…



私が目をまん丸くして彼…いや、彼女を眺めまわしていたら彼が訝しげにこっちを見た気配がした。

密着している状態じゃあ、顔まで見ることはできない。



私が驚きで言葉はおろか思考すら失っている時に、さっきよりも荒々しいノックが聞こえてはっと我に返った。



「ヴェレーナ様、いらっしゃいませんか?」



そのどこかイラついたような声音に、私たちは押し黙る。


…たぶんだけど、この人がヴェレーナ様なのかもしれない。

だってこの状況じゃどう考えても、そうよね?