こんこん



「ヴェレーナ様?」



扉の向こうの男の人がもう一度ノックをすると、次いでかつかつと荒い足音が近付いてきた。

その人物が明かりを持っていたらしく、扉の隙間からオレンジ色の光が漏れ出る。



「おい、いたか?」

「いや……ここから物音が聞こえたからもしやと思ったんだが」



彼らの会話に少年の手がぴくりと反応した。


何かまずいことがあるんだ、とちらりと彼の表情を窺えば。



「っ―――!」



私は驚愕した。それはもう、顎が外れるぐらいに。…彼が顎を押さえてくれていなかったら、たぶん外れてた。と思う。


ほのかな明かりでおぼろげに見えた彼は、彼じゃなかった。

……彼女、だった。