男は再び目を閉じた。

そうすれば思い浮かぶのは愛しい人の面影。ふわりと花が綻ぶような微笑み。



ああ、もう少し、もう少しだ。

あともう少しで君に逢える…



すると、男から感じる気だるげな雰囲気は僅かに払拭され、目を開けた深緑の瞳にはほんの少しの生気が宿っていた。

しかし、それは狂気ともいう。

男の生きる糧はもはや、狂気となっていた。



「もうよい、行け」



青年はその姿に背筋を震わせ、そしてさらに深く頭を垂れた。

恐怖よりも歓喜に震えたのだ。この男に仕えることができるという喜びに。



「御意」