太陽の光が遮られた部屋で豪奢な椅子に腰かけていた男は目を閉じていた。

夏にも関わらず、そこは悪寒を感じてしまうほど深い闇に覆われている。


それは、生きることを放棄し、ただ他人に与えられるだけの生を過ごす男には相応しい闇。



かたりと何処からともなく聞こえた物音に、男はうっすらと瞼を押し上げた。

かつては見るもの全てを魅了した美しい深緑の瞳が覗く。



「報告を」



短く簡潔に命じれば、いつの間にいたのか、目の前の青年が頭を深く垂れて応じた。



「姫は無事、こちらの世界へやって来た様子です」

「場所は」

「アルジェント王宮内のようです」



アルジェント…どこまで私の邪魔をすれば気が済むのか……

男は眉を寄せ、直後、不敵にニヤリと笑んだ。


どこにいようと関係ない。連れ戻す手段はいくらでもある。

今は、異世界の姫の来訪を喜ぼうじゃないか。



「器は」

「はい、現在は王都よりも南、ミュールに滞在中。行き先は不明。今すぐ捕らえますか?」

「よい、あやつは捨て置け」