そんな先輩を見ていられなくなって、あたしはトイレに向かおうとした。

 「…歩斗?」

歩斗が階段に座っているのが見えた。

歩斗が深い溜め息をついている。

 「…勝てない試合じゃなかった。」

 「…うん。」

自然と歩斗の隣に腰を下ろしていた。

歩斗の目はいつもとは違う不思議な色をしていた。

 「でも、負けた。
  …気持ちの問題なのかな?
  よくわかんねぇや。」

無理して笑う歩斗。

その目からは涙がこぼれていた。

 「らしくないよな。」

歩斗がリストバンドで涙をぬぐった。

 「…あたしはそう思わない。」

あたしの左手が歩斗の右手に触れた。

綺麗事を言うつもりはなかった。

 「サンキュ。」