「…ありがとう。 でも、…待つな」


「…待ってる。ずっと待ってる。
 一生、あたしのとこにこられへんくても…ずっと、待ってる…」


拓馬は顔を上げ、梓紗の頬に手を当てる。
もう゛文字゛としては見にくい傷跡に、優しくキスを落とした。


「一生は…長い。まだ、お前は18やで?
 これから、何倍も生きてく。
 その時間を、俺のために無駄にしてほしくない」


「無駄かどうかは…あたしが決めること。
 あたしが、勝手に待ってるから……」


「…っふ。ほんま、あずには敵わんわ。
 ほんま…………情けない」


自分にはない真っ直ぐさを、彼女は持っている。
俺のために、ここまでしてくれる。


「梓紗に会えて…よかった」


拓馬は、梓紗の耳元でささやいた。

梓紗は、溢れる涙を拭って…拓馬にキスをした。


「いつか…会えますように」


背中にまわされていた腕を、そっとほどく。
そして、背を向け…玄関を出た。