ガー、ガー……

掃除機の音が鳴る。

一階で母が掃除機をかけている。

もうすぐ春。

それなのに清清しい気持ちや、嬉しい気持ちになれないのは、

卒業式のせい。

最後だったのに。

大好きなユウくんに、

想いを伝えるって決めたのに、

あたしは伝えられなかった。

古臭い第二ボタンだって、

もらうことが出来なかった。

ユウくんはバスケ部でエース。

かっこよくて、

誰にでも優しくて、

爽やかな人。

だから、みんなから人気だった。

中学に入学した頃は、

背が低くて小さく見えたのに。

いつの間にか、

あたしの身長を越して、

私の手の届かないところへといってしまった。

最初から、手が届くところにいたわけじゃないけど……。

私は汚く散らかった部屋を見回す。

まるであたしの気持ちのよう。

あたしはため息を一つついてから、

部屋の片付けを始める。

ユウくんが好きだって言ってた漫画も、

解らなくて教えてもらった数学の参考書も、

もう高校には必要ない。

ユウくんとあたしは違う高校へ行く。

はなればなれ。

親友のカヨコとは相談しなくても、

同じ高校に通うのに。

どうして、勇気が無かったんだろう。

どうして、ただ「好きです」の一言が言えなかったんだろう。

一つ一つ、

片付けていく。

部屋も、

ユウくんへの気持ちも。

あとは、

掃除機をかけるだけ。

「お母さーん、後で私の部屋、掃除機かけといてー」

あたしはお母さんにそう言って、

自分は出かける準備をした。

帰ってくる頃には、

きっと小さなゴミは掃除機が吸ってくれる。

キレイさっぱりと。