「沙穂、珈琲を入れてくれないか」

 勝彦が沙穂に向って、珈琲を飲む仕草をした。

 
 沙穂と果穂が珈琲の仕度を始めた。
 珈琲のいい香りが辺り一面に漂った。


 「暫くの間だけ、おとうさんの思うようにやってみたら。今までお父さんには随分と世話になった事だし。それ位の我が儘は聞いてあげてもいいんじゃないかな」

 勝彦が珈琲を飲みながら言った。

 「暫くってどれ位」

 果穂が勝彦に尋ねた。


 「1年位はどう」

 「1年位か。それ位なら・・・まあいいか」


 離婚に反対していた果穂も、何とか妥協点を見い出した。


 「お父さん、納得出来そう」


 勝彦が信彦の顔を覗くようにして言った。

 「期間限定の別居か」

 「私たちからお父さんへ、これが精一杯のお礼よ。有り難く思いなさいよ」

 沙穂の言葉に、果穂と勝彦が同調して、家族会議が何とか纏まった。


 勝彦は3人の提案に渋々従った。