信彦の自宅は、阪急茨木駅から徒歩10分ぐらいの所にあった。
 小さいながらも、庭付きの一戸建てである。


 「そろそろ起きたら。片付かなくって困るわ」

 妻の果穂が顔に皺を寄せながら囁いた。

 「うん」

 信彦は仕方なく起き上がると、台所に行った。
 果穂が入れてくれたコーヒーを一口飲んでから、信彦が口を開いた。


 「就職の事だけど、実は・・・」
 「いい就職先、見つかりそう」

 「実は、就職はしない事にした」
 「えっ、就職はしないの。では、どうする気」

 「自分でするつもりだ」
 「自分で。いったい何をすると言うの」

 「株だ」
 「株って、上場会社が発行している、あの株」

 「そうだ。株の売買をしようと思っている」

 「あなた、正気で言っているの。どうして、株で食べて行けるの。損をするだけよ。そんな無茶苦茶な話、私は絶対に反対よ」

 「お前に賛成してもらおうとは思っていない」
 「私が賛成しなくてもいいの」

 「構わない」

 「あなたの言っている事、私には理解できないわ」



 「僕と離婚をしてくれないか」



 思い切って信彦が、離婚という言葉を口に出した。