ズボンの股から下がビショ濡れだった。


 臭いを嗅いでみる。



 アンモニアの臭いがツーンとした。



 酔って寝ている間に、小便を垂れ流したんのだろう。

 
 今まで巡り合った事の無い、哀れな哀れな自分自身が、そこにはいた。


 「定年で会社をお払い箱になった男なんて、所詮こんなものか」


 信彦は心底、自分自身を可愛そうだと思った。
 気を取り直すまでに、少し時間が掛かった。

 信彦はポケットから携帯を取り出した。


 「もしもし、俺だ。悪いが車で迎えに来てくれないか」
 「何があったの。昨日はどうしたの。本当に心配したわ」

 「詳しい事は、後で話す。すぐに出られるか」
 「ああ、何とかするわ。今どこにいるの」

 「新地のすぐ近くに、東洋空ホテルがあるだろう。前にお前と食事に来たあのホテルだ。そこの玄関にいる」

 「わかったわ。今すぐに出るわ」
 「悪いが、頼む」



 信彦は電話を切った。
 妻の困惑した顔が、信彦の目に浮かんだ。