としサバ

 漬物を食べながら、信彦は女将の真意を計りかねていた。


 「半分、本気って、どういう意味なんだ」
 
 「そうね。たとえば、お店が休みの土日、2日間なら結婚してもいいかな」


 「僕みたいな役立たずと」

 「それだから、いいのよ。私、前々から深ちゃんは誠実な人だと思って好感を抱いていたわ。でも、昨日、二人で一晩を送って、こんな安らかな一晩があることを、初めて知ったわ」


 「幾ら誠実だって、男としては駄目だから」


 「この年になると、体の結び付きより、心の結び付きの方が、ずっと大切になるのよ。
私も商売柄、いろいろな男を見てきたわ。それで、思ったの。男って、蝶々みたいだって」


 「蝶々?」


 「そうよ。幾ら、尽くしても、蝶々はひとつの花では、決して満足する事は出来ない。すぐに、次の花に飛んで行ってしまう。花は蝶々に憧れるけど、所詮、蝶々とは、利己的で、欲望の固まりで、蜜を吸い取れば、次の密に移って行く浮気な生き物なのよ」