相思相愛

私はタイミングが悪い。
「君も遅刻？」
一番会いたくない人に、会いたくないときに会ってしまう。
しかも、急ぎすぎて間違えてヒールを履いてきてしまった私の足はもうぼろぼろだった。
「はい…」
私がそう言うと、巧はクスッと笑って、
「偶然。俺も遅刻なんだ。4時限目に間に合わないと単位取れないんだ。まあ、そんなに急がなくても間に合うんだけどねさ。君も、単位取れないの？」
私は少し時間を気にしながら、
「…私、3時限目に間に合わないと単位取れないんです。」
と、言った。
すると巧は急に血相を変え、
「うっそ！もう間に合わなくなるよっ！行こう‼」
と言って、私の手を握った。
「え…でもっあなたは間に合うんでしょ？…それなら私なんてほっとけ…」
「いいからっ‼ 足も、靴擦れしてて痛いだろ‼」
気づいてくれたの…？
この人は昔からみんなに平等に優しかった。
それがどれほど残酷なことだったか、巧は知るよしもないだろう。
だから、私だけがこの人の特別なんだと、そう、思ったことも少なかった。
でも、優しくしないで！…って、そう叫ぶのは到底無理なことだった。
巧が他の人にどんなに優しくても、今、その優しさは私にむけられている。
それを、無理やり壊すことなんて、私にはできなかった。
大学まで…大学まで、このままでいたい…。
そう思いながら私を引っ張っている巧の背中を見ていた。
冬の寒さで、あんなに冷たかった私の手は、巧の手で温かくなっていた。