「…ただいまぁ…って誰もいないか。」
薄暗い玄関に私の疲れきった声が悲しく響いた。
時刻はちょうど深夜1時を回ったところである。
「…ひとりってこんな辛かったっけ…」
ふとそう思ったとき、頭の中にひとりの男の顔が浮かび上がってきた。
「…ちがう。…もう巧は好きじゃない…」
巧と再会してから今日一日、ずっと頭から離れない。
せっかく怜奈にも背中を押してもらったのに…
私は乱暴に靴を脱ぎ、リビングのソファに寝転んだ。
なんで忘れそうになったときに私の前に出てくるのかなぁ…
私はもう一度体を起こし、キッチンにむかい、冷蔵庫の中のビールを取り出した。
プシュー…
静かな部屋にビールのふたを開ける音だけが残る。
「━━━━…っ…」
その夜、私の体温ですっかりぬるくなってしまったビールを片手に、一人さみしく、
声を殺して泣いていた。

「…ん~っ…あったまいたい…」
私は昨日一人で飲みながらソファで寝てしまっていたようだった。
「…体だるい…」
今…何時?
へぇ~10時半ねぇ~…
「…は?…やばいっ遅刻だっ!」
今日の3時限目の講義に出なかったら単位をもらうことができない。
10時半とゆうことはすでに2時限目は始まっている。
私はマッハで着替えて、歯磨きをして、髪にくしを通して、朝食も食べずに家を飛び出した。
やばいやばいっ‼
全力で走ったおかげか、あと5分くらいで大学に着くところまできた。
そして、角を曲がろうとしたとき、
どんっ‼‼
思いっきり人にぶつかってしまった。
「きゃっ…」
「ぅわっ…」
同時に2人の悲鳴があがり、私は尻もちをついてしまった。
私ははやく謝ろうとすぐに起き上がり、ぶつかった人の顔を見た。
たぶん、私の顔は引きつった。
…うそ…。
その人も私にようやく気づいた様子で
「またあったね。」
と、また私に優しく笑った。