相思相愛

「怜奈っ!まじで早くしないと一時限目受けなかったら私単位取れないんだよっ!」
あれから7年。私、桜田杏(さくらだ あん)は20歳を迎えていた。
「ごめんっ!アラームの設定時間が間違ってた!」
この慌ただしいのは私の親友、真野怜奈(まの れいな)である。
彼女は自分で自覚はないが、身長も高く、顔も整っているので評判はいい。でもこのおっちょこちょいな性格が仇となり、今までできた彼氏の数は1人だけ。それもわずか3ヶ月しか続かなかった。
こんな怜奈をなんとかしてあげたいが、本人が彼氏はいらないと言っているのでこの話はまた今度。
「ばかっ!走るよ‼」
私たちは猛ダッシュで大学への道を駆け出した。

「「…間に合った~…」」
今日、1年分くらいの体力全部使ってしまったと思うくらい人生最大の全力疾走をしたような感じだ。
時計を見たら、もう一時限目が始まる3分前だった。
「あ、やばい、怜奈座ろっ」
「あ、うんっ」
私たちは後ろのほうの一番左の席に座った。
私たちが始まるまでしゃべっていると、
「…あの、ここいいですか?」
と、同い年くらいの男2人組が私の横の席を指差して、私と怜奈に話しかけていた。
「あっ、どうぞ…」
私はそう言って、ふと話しかけてきた男の顔をみた。
すごく整った顔立ちで、明らかにもてそうな人だった。
でもその顔にはなんとなく見覚えがあった…いや、確実に見たことのある顔だった。
私が、あまりに見入っていたせいか、その人が不思議そうに私の顔を見てきた。
「…あっ、すみません…どうぞ、座ってくださいっ」
私が慌ててそう言うとその人は私に優しくほほえみかけて、
「ありがとう。」
と言った。私はこの瞬間確信した。
その笑顔は、前にも何度も、何度も見た顔で。
その笑顔に、幾度となく泣かされて。
その笑顔が、いつでも、どんなときでも見たくて。
その笑顔を、私だけに向けて欲しくて、努力して。
その、優しい笑顔に、振り回された。

その、笑顔が今ここにある。


私の目の前に…矢田巧(やだ たくみ)がいる。