相思相愛


「ごめん…他に好きな人できた…。杏にはもっといい奴いるよ。…ごめんな。」

そう言って巧は教室を出て行った。
そのときは、涙すら出てこなかった。
ほんとに好きだった。
ほんとに、好きだった。
好きなる人を間違ったんだ、と思った。
この人を好きにならなければ、
こんなに辛い思いしなくてすんだのかもしれない。

雨が降りしきる帰り道、歩道の横に、雨に打たれても必死にりんと咲いている、名前の知らない一輪の花を見つけた。

…私も、こんなふうに強くなりたい。

私は立ち上がり、また家へと足を進めて行った。
正直、今は巧のことを諦められない。
でも、いつの日か忘れたい、諦めたい…いい思い出にしたい。

…そう、思った。