「芽衣子ちゃん…俺と……」

「……!!」


ピロロロロ、ピロロロロ…


あと数センチで唇が重なるかと思った、その瞬間。現実に引き戻すように、けたたましく着信音が鳴り響いた。

「…携帯、鳴ってますよ」

「あ」

亜紀さんは「ははは…」と気まずそうにひと笑いすると、ちょっとまってね、と言って鳴り響く携帯電話の通話ボタンを押した。

「もしもし、俺だけど?ん?なに?…うん。俺も会いたい。わかったよ。すぐいくから待ってて?」

明らかに女性との会話であろうやり取りを終えると、ニヤけ顔で終話ボタンを押す。危うく忘れてたけど、そうだよ。この人は、こーゆーチャラい人だった。

「女の人ですよね?」

「あ、あははは……いやー、ごめん。ちょっと急用が入っちゃってさ。続きはまた今度、ってことで!」

「続きってなんですか。そんなものありませんから」

「えー?メイコちゃんだってさっきまで乗り気だったじゃん?」

「あ、あれは……」

思いのほか真剣な雰囲気にながされたっていうか、気の迷いっていうか、なんていうか。

とにかく、何かの間違い。うん。間違いです。絶対。

「俺は本気だよ?ずっと好きだもん、メイコちゃんのこと」

「あーはいはい。ありがとうございます。でも遠慮しておきます」

あたしは呆れ果てて、遠い目をしながら紅茶をすする。

「君がさ、本気で俺のこと好きになってくれたら……他の女の子なんて全部切るから」

あたしの手を取り、またもや真剣な瞳で見つめながら力説する亜紀さん。

「電話の人、待ってますよ?」

「うっ……」

あたしを口説いたすぐ後に女と約束を取り付けるような輩が、今更誠実そうなふりをしたところで、何の効力もない。

「じゃ、行ってくるね!メイコちゃん、続きはまた帰ってから!!」

「だから続きはねぇって言ってんだろ…」

辛辣なツッコミも物ともせず、ひとつウインクを投げると、亜紀さんは浮かれ気味に居間を後にしたのだった。