「うわっ??」

脱衣所から飛び出したあたしは、廊下で誰かにぶつかってしまった。そっと顔をあげると、そこには……

「ゆ、悠宇くん。今日は早いんだね…」

飛び出してきたあたしを迷惑そうに睨む悠宇くんがいた。

「ん、まあね。ってゆーか、どしたの?」

「いや、いろいろ……うん」

先ほどの事件を思い出すと、言葉に詰まった。

「ふぅん…。亜紀兄のセックス現場でも目撃した?」

「え、」

な、なんでわかったの…?まさか、エスパーなの?

「日常茶飯事だから。亜紀兄が女連れ込むなんて」

つまらなそうに言い放つ悠宇くん。日常茶飯事ですか。そんな日常、すごく困るんですけど。

困惑してるあたしを見つめて、悠宇くんはクスリと笑うと。

「処女には…刺激強かった?」

「な…」

「顔、赤いし」

指摘されて、なおさら顔が熱くなる。また言ったな、この小僧。本当のことだから否定できないけど!!

「しょ、処女じゃなくたって人のナニしてるとこなんて見る機会ないわよ!」

「まー、それもそうか。…あ、なんなら僕が慣らしてあげてもいいけど」

「ば、ばか!結構です!」

キョドるあたしに、悠宇くんはさらにおもしろがってクスクスと笑う。

「ホントからかいがいがあるよね、芽衣子さん」

か、可愛くないな、こいつ!

「でも安心してよ。ホントは僕、そういうの嫌いだから」

「え…?」

「僕、嫌いなんだよね。セックス。女の喘ぎ声、吐き気がするんだ」

急に真面目な顔でいう悠宇くんに、少し驚く。

そ、そうなの?援交なんかしてるから、そういうの好きなのかと…物憂げな悠宇くんの表情に、少し胸がざわつく。

「その点、芽衣子さんは、なんていうか…色気がないから安心」

天使のように繊細な顔でにっこり笑う。極上の笑顔でおっしゃって頂きましたけど。それ、褒められてるの?貶されてるの?ちょっと複雑なんですけど。

「ま、芽衣子さんがそういうコトしたいっていうなら、僕も考えなくもないけど?」

にやり、とまた妖しい笑みを浮かべる悠宇くん。まったく、この悪魔は可愛い顔してなんてことを…

「結構です!!」

「ふふ。そんなことより。お腹すいた。はやくご飯つくってよ」

「あ、そうね。すぐ作るわ」

ようやく我に返ったあたしは、夕食の支度をしに、キッチンへと向かうのだった。