葉流さんに無言で促されて神宮寺家に足を踏み入れると。

吹き抜けで開放感があるエントランス。中央には2階へと続く大きな階段。

右手には広いダイニングルームとリビング、奥にキッチン。左手には応接間や広間があり、階段の奥へ進むと、ちょっとした温泉並みに広いお風呂。

2階には家族それぞれの部屋と、書斎、それと客間がいくつもある。

驚くほど広く、贅沢な作りなのに、すべてシンプルで品のよいインテリアで統一されているために、心地よい空間になっている。

「ここ、部屋」

お宅訪問のノリで一人解説していると、葉流さんが部屋のドアを開けて案内してくれた。

「え、ここは?」

「あんたの部屋。好きに使っていい」

「うわ…いいんですか?こんな奇麗な部屋」

一目見て、思わす葉流さんの方を振り返ってしまう。

ふわふわのおおきなベッド、ドレッサー、机に備え付けのクローゼット。

大きな窓を開けると、バルコニーになっていて、中庭からさわやかな風が入ってくる。

全体が白と淡いオレンジを基調にまとめられていて、女の子らしい部屋だった。

家政婦ごときが、こんなとこ住んじゃっていいんですか?ってか、一人部屋自体が、大家族梶原家の次女にとっては奇跡的なんですが。

「ホントにいいんでしょうか?部屋まで貸して頂いて」

「構わない。ここ一番セキュリティが強固だから」

「せ、せきゅりてぃ?」

ぼそっと物騒なことをつぶやく葉流さん。なんか、言ってる意味が若干、分からないんですが。

「早速、飯」

「あ、はい。もちろんです」

そうだ、あたしは働きにきたんだ。可愛い部屋を用意してもらって浮かれてる場合じゃない。

あたしは備え付けのクローゼットに荷物をしまい込んで、すぐさま夕食の準備に取りかかったのだった。