「あ、はい。もちろん大丈夫ですけど……」



「じゃあ雨も降ってきたし、すぐそこのマンションだから行こう」



「マンションに?」


 なんでマンション? ここじゃダメなのか?



「はやく、時間ない。取引先の人うるさいの」


「えっ? あ、はい」


 自転車を押して後を追う自分が、なんだか情けない。 出会って間もない彼女の言いなりだった。



 マンションに向かう途中で穂香に電話した。早口で、今日は行けないと伝えた。

 運良くナツと一緒にいたので家まで送るようにお願いした。こういう頼みをナツが断らないことを利用した。