素直に綺麗な人だと思った。感想はただそれだけ。一目惚れしたとか、そんなんじゃない。

 大人の余裕なのか、動揺しまくりの俺に対して「君は怪我しなかった?」と微笑んだ彼女が俺みたいな高校生を相手にするとも思えなかった。

 高級ブランドのバッグに散乱した中身を入れていく。女らしい小物の一つ一つにドキドキした。

 通り過ぎてく人は誰も足を止めようとせずに、迷惑そうに俺たちの脇を通り抜けていく。

 それも申し訳なくて、彼女の顔をまともに見れない。


「あれ……携帯が」


 手元を見ると携帯の画面に亀裂が入っている。


「げ? 壊れてますよね……」


 彼女は電源ボタンを押したりするが反応がない。 しかも、運が悪い事にポツリポツリと雨が降ってきた。


 やべて…穂香をコンビニに待たせてる。どうしよう?

 そんなことより、こっちが優先だ。俺がぶつかったんだからな。


「壊れてますよね? 俺弁償しますから……本当にすみません」


 彼女と目が合った。息をのんで動けない。


「弁償はいいよ。明日の朝に新しい携帯買うから。でもね……私一人暮らしで、電話がこれしかないの」

 壊れた携帯をチラっと見せる。


「今夜、取引先に連絡しなきゃいけないから……君の携帯貸してくれない?」