チャイムが鳴る。落胆のものなのか開放感から放たれるものなのか、よくわからない、ああー! という声が教室の彼方此方から聞こえてくる。


「回答用紙、後ろからまわせー」

 担任の声で、後ろからまわってくるクラスメートと回答用紙と自分のそれを比べて顔面蒼白になってるやつもいる。

 がやがやと煩い教室も、回答用紙が自分の手の届かないところにいってしまうと、もうそこは夏休みに突入だ。



「ナツ、おまえ試験どうだった?」


 隼斗は、自分の心配より俺の心配ばかりする。中間で学年一位の自分の心配は全くいらないんだよな。どうせ期末も隼斗が一位だろ。

 俺は万年圏外でいいんだよ!


「ばっちり。それより、はやくバスケしようぜ。体動かさないと、マジでやばい。頭ガンガンしてくるし、酸欠とにてるな」


 隼斗は呆れた顔で呟く。

「毎回赤点スレスレなのに、よくばっちりとか言えるな! 穂香にナツの勉強みてやれ、て言われてる俺の身にもなってみろよ。本当にオマエの頭の中バスケだけだ」

「バスケを教えてくれたのは、隼斗だろ」


「そうだけど、試験は試験だろ!」


 小さい頃に、バスケ漫画にはまって二人で公園で主人公になりきって遊んでいた。穂香も今みたいに身長差がなかったから、一緒にシュート練習をしてた。それが楽しくて、俺たちは毎日ボールを持って遊んでた。

 中学から三人そろってバスケ部に入り、本格的な試合もできるようになった。高校でも当然バスケ部を選んだのに、穂香はいつの間にかバスケを辞めていた。


「うるせーな。隼斗ってうちの母親より口うるせーよ。で、体育館行くのか行かないのか、どっちだよ。俺は、行くけどな」


 荷物と教科書をもって廊下のロッカー奥深くにしまい込み。かわりに、バスケットシューズとボールを取り出す。

 同じクラスの穂香も廊下に出てきていた。


「行くに決まってんだろ」と隼斗。

「だと思った」と俺。


「二人とも、もうバスケするの? 私、美咲と先に帰るからねー」


 と、穂香は手を振って俺たちに背を向けた。

 セミロングの髪をポニーテールにして、その毛先が跳ねるように歩く後ろ姿に隼斗が目を細めたのを俺は見逃さない。


「行くぞ、ナツ」