────予備校からの真冬の帰り道を自転車で急ぐ。吐く息が真っ白だ。

 冬になると夏の暑さが恋しくて、夏は冬のきんと冷えた空気を感じたくなる。


 所詮ないものねだりなんだろうけど、追い詰められないと気がつかないことばかり。



 彩さんのマンションが少しだけ見えてきたところで、ぐん、と自転車に負荷がかかって危うくバランスを崩しそうになった。



「あぶっねぇ! なにすんだよ!」


「随分な口の効き方するんだな、隼斗」


「遼也さん!」


 自転車の荷台に突然飛び乗ってくるという常人外れた行動をしたのは、遼也さんだ。なんか納得。



「隼斗、方向転換しろ」


「はあ? 嫌ですよ、俺待ち合わせしてますから降りてください」


「うるせー、久々の里帰りなのにナツは穂香とデートでいないっていうし代わりにおまえが遊べ」


「えー……遼也さんって友達いないんじゃ……」


「なんか言ったか?」


「いえ、なんでもございません!」