────どうして?


 前髪からポタポタと落ちる雫を拭って息を潜めた。


「くそ、どこ行ったんだよ。つまんねーの」


 すぐ近くから、違うクラスの男の子たちの足音がする。息を止めた。


 お願い! 見つかりませんように!


「亜理沙に電話しろよ、とりあえず成功とか言っとけば金くれんだろ。あいつんち金持ちだから、俺ら遊ぶ金くらい騙しとっても痛くも痒くもないだろ」

「だな、じゃ終わりにしてゲーセン行きますかっ」


「ああ、そうしようぜ。ったく亜理沙もひでぇ女だな」


「でも、おまえまじでヤれるならヤりたかっただろ? 穂香なんて普段なら絶対俺ら相手にしないような女だぜ?」


「だよなー、でも隼斗怒らせんの嫌だし、そんな気ねーよ」


「とかいって水かけたじゃん、十分怒るんじゃね?」


 足音と話声が遠のいていく。息を吸い込むと生暖かい涙がとめどなく溢れてきた。

 濡れた制服が重たく張り付いて気持ち悪い。嗚咽と怒りと悔しさと悲しさが混じって、得体のしれないどす黒い何かがお腹の中にたまっていく。

 全部、吐き出しちゃいたい…………。