「隼斗……」


 今捕まえとかないと、彩さんは遠くに行ってしまいそうだ。

 自分で考えて一人で行動できる大人だから。


「隼斗、一人でいるのって意外と楽なんだよ? 誰にも固執しないで一人きりでいると、嫉妬もしないで済む」


 痛みに耐えて肩に手が届くと、彩さんは折り畳み式の椅子からベッドの端っこに座り直した。

 ふっと笑って、彼女からのキスがくる。

 高そうな化粧品の匂いと、彼女からでてる甘い香りが合わさって、病院の中の消毒臭い空気を一掃してくれる。



「でもさ、隼斗見てるとそれってどんなに寂しいことなのか教えてもらったような気がする」


「だからって……お見合いしなくても……」


 意気消沈した俺を彼女はくすくすと笑った。馬鹿にされているのに、どこか心地いい。



「隼斗、好きよ」



 彩さんはもう一度俺に控えめなキスをした。


「高校生に告白するなんて、有り得ない」 


 それから、俺の胸に頬をすり寄せた。両腕でしっかりと抱きしめる。



「俺も好きです。出会いは最低でしたけど……」


 本当だね、とくすくす笑いながら彩さんは涙を流してた。その涙の意味なんか全然わからないのに、俺は満たされてた。


 出会った頃より、どんどん彼女の存在が大きくなってた。