「あいつ昔、怪我で入院してたことあるんだ……」


「軽口叩いてたじゃん。それに隼斗は、前も足がだめで休んだけど二日で復帰してたし。それより、ナツ帰ろうぜ」


 汗のかいたユニホームがつまったビニールバッグを片手で持ち上げると肩にひょいっとかけて、ヤスは駅の方を指差した。


「ああ、そうだな……」


 表彰式が終わってからしばらくたっているから、人はまばらだ。

 さっき、兄貴と葵さんとうちの母親の姿もあった。見に来るな、って言っといたのに


 それなのに絶対来るはずの穂香の姿がなかった。


 どんなに観客がたくさんいても、その中から穂香の姿はすぐに見つけられた。


 両手を握り締めて、がんばれー、と口を動かす穂香はすぐに見つけられるはずなんだ。




「ナツーっ!」



 体育館の正門にいたのは亜里沙だ。



「よかった、ナツの携帯繋がらないし、他のバスケ部の人がもうすぐ来るって言うから私待ってたの」


 亜里沙が巻き髪揺らして、ふふ、と笑う。


「あー、なんだよ! 俺、邪魔者じゃん! 言えよなーナツ、じゃあな」


 ヤスは俺の背中をバシンと叩くと前を歩く部員たちを、待ってよ! と追いかける。



「一緒に帰ろ、ナツ」


 亜里沙が腕にからまる。最近やたらベタベタまとわりついてくる亜里沙に、やめてくれ、って何回言っても、これが癖なの! と亜里沙は何度も腕をからませてくる。