水族館を出たのは、もう夕方だった。ちょうど目の前が海岸で、彩さんはミュールを脱ぐと素足で砂浜を歩く。



「砂が冷たくて気持ちいい、隼斗も靴脱いだら?」



 スニーカーと靴下を脱いで、つま先から砂に埋もれる。表面は少し太陽の熱が残っていて、中はひんやりとした冷たい砂が一日歩き回った足に気持ちがいい。



「隼斗、受験生でしょう。こんなに遊んでて大丈夫なの?」


 波打ち際で、腰をおろした彼女の隣に座った。


「だめですけど、彩さんが誘うから」


「あ、大学落ちたら私のせいにするつもり? じゃ、もう会わない。明日から他人に戻ろう」


 冷たいなぁ……とため息を吐き出して、彩さんの腰を抱き寄せて頬にキスをする。



「実は俺、小さい頃車にひかれて脊椎痛めたことあるんですよ」


「え? でもバスケ部なんでしょ?」


 自分の過去とか夢とか、そんなもんを誰かにかっこよく語るのは簡単だけど、カッコ悪い話をする時はいつも慎重になる。




 相手を間違えなければ、大丈夫。


 彩さんは、聞いてくれる。