穂香が嫌いになったわけじゃない。今でも穂香が好きだし、俺の彼女でいて欲しいと思ってる。


 だけど、穂香がそれを継続させることを本気で望んでないんじゃないか。


 望んでるなら、ある程度俺の要求も叶えてほしい。それを忍耐強く待ってきたのに、穂香は別れを切り出したら、あっさりと頷いた。


 俺が穂香に妹のような何か別な感情がプラスされてるように、穂香も俺を恋人としてじゃなく例えば兄のように思っているから、恋人のようなことができないんだ。



 机の上の携帯が振動した。



「もしもし」


『今仕事終わって部屋についたとこ』


「お疲れ様です。俺は今勉強してるとこなんすけど」


 だから、お姉さんの甘すぎる誘惑に俺は流される。


『高校生って大変だねー』

「本心で言ってます? 皮肉にしか聞こえませんけど」


 彼女は、本心よ、とカラカラと笑うと、通話口にふっと息を吹きかけた。


『最近こないから、どうした?』


「彼女と別れたんです。彩さんのせいです。だから頭にきてるんですよ。友達とも喧嘩して、むしゃくしゃして、もう誰とも関わりたくないって気分なんです」


 俺たちが別れたことは、全部が彼女の責任じゃないのに……俺はどこまでも彩さんに甘えたいらしい。

 大人で、俺の全てを受け入れてくれる彩さんに思いっきり甘えたい。