─────智香たちがいなくなるとリビングを必死で掃除した。こんなのバレたら、お母さんの具合がまた悪くなっちゃう。


 床を雑巾でゴシゴシふいて、煙草の臭いが染み付いてしまったカーテンは洗濯した。



 大丈夫、これで全部元通りになる。





 でも、結局それは取り繕ったものでしかなかった。



「穂香、これお父さんからのお土産」


「ありがとう」



 お母さんから受け取り、包装をとくと、中からは洋書の絵本が出てきた。



「うわ、可愛い! お父さんにお礼の電話する」

「英語読めそう? お母さんには全然わからないわ」

「辞書ひきながら頑張るよ。全部読めたら、お母さんに読んであげる」



「頼もしいわ、ありがとうね。穂香……ところで」



 お母さんは本当に嬉しそうな顔をしてから、表情を曇らせた。



「部屋が掃除してあるけど……」


「うん、ちょっと汚しちゃって」


 お母さんの顔から表情が消えた。この顔が一番こわい。


「そう、お母さん疲れてるから今日はもう寝るね。おやすみ、穂香」