言いたくないなら言わなくていいよという笑顔でアタシを子供のように扱ってきたけど、それが嬉しかったんだ。
彼はアタシの頭上にあった手を降ろして、もう片方の人差し指で頬を押した。
「つーか、妹ちゃん、それにしてもひでー顔してんなぁ」
「そんなに酷いですか?」
消えそうな声。
「うん。可愛い顔が台無し」
彼の言葉に揺らぐ心。
「…嫌だな、こんな顔見せたくない」
再び隠そうとすると彼は真顔で腕を優しくとり
「……いや、その、これは、」
急にはっと手を離し、恥ずかしそうに焦りだした。
「あの、」
「……もっと見たいなって…思ったっつーか…あのさ……あーー!!」
彼は頭を掻きながらムシャクシャして唸った。
「俺もう決めた!」
ニカッと笑うと
「お前のこと、今日拉致っていーかな?」
充血した眼を瞬きする暇無く、彼に腕を引かれるまま街を脱け出した。
「何処に行くんですか。」
「それ教えたら意味ない。」
そこから会話は途絶えた。
前に進む度、風が強くなる。冷たいよ。
真っ暗な中に彼の足音とアタシの足音。
彼の吐く息にアタシの吐く息。
彼の手を頼りに見えない背中を辿る。

