彼女が泣き出した瞬間、俺の鼓動が加速する。
 ダメだ・・・抑えろ・・・っ。
 今ここで代わっちゃいけない・・・。

やめろよ・・・。もう俺から出てくんな・・・。
<・・・悪い、女が泣くのは見てられねぇ>
やめろって言ってんだよ!!
<心配すんな、あん時みたいには・・・菜緒(なお)の時みたいにはさせねぇから>
やめろ・・・やめろ・・・。
<お前が許可しねぇなら、俺が勝手に出るだけだ>

ドックン・・・

「おい、お前らやめろ」
 そう言うとケンカしてる二人が振り向いた。
「何言ってんだよ! 邪魔すんな!」
「大体てめぇなんなんだよ!」
 ・・・うるせぇ。
 さっさと片付けるか。
「女泣かせんな。ケンカなら外でやれ」
 こいつらの目がマジになる。
「あぁ?? てめっ・・・ふざけんな!!!」
 男が殴りかかるのを避ける。
 ・・・雑魚。
「・・・うるせぇ黙れ」
 一人の手を軽くひねる。
「・・・っ・・ぃってぇ・・・」
 涙目になっていやがる。
 もう片方はおびえすぎて固まってる。
「・・・うぜぇんだよ。うせろ」
「・・・はい、ごめんなさい・・・」
「すいませんでした・・・っ!!」
 結局、謝りながら去っていった・・・というより逃げた。

ドックン・・・

 気がつくと皆が拍手していた。
「冬理くんすごいよ!」
「そうそう! あいつらケンカしたら誰にも止められねぇからな・・・」
 俺は苦笑いで答えるしかなかった。
「あ・・・まぐれだよ、まぐれ!」
 ふと後ろを振り返ると涼太が放心していた。
 勘違い・・・されたか?
「お前・・・すごいな」
「あぁ・・・小さい頃柔道やってたんだよ」
「へぇー・・・意外だ(笑)」
 ・・・良かった、気づいてない。