「えー、今日は転校生を紹介する」
 黒板の前にスーツを着たおっさんが言った。その視線は、教室のドアの前に立っている俺の方へと向けられる。
「さぁ、入りなさい」
 許可をもらい、教室のドアを開ける。全員の視線の先が俺に切り替わる。特に女子。なんでそんなに目をパチクリさせて、俺を見るんだ?
 そんなことを考えていると、スーツを着たおっさん・・・簡単に言うと俺の担任がまた何か言う。
「自己紹介してもらおうか」
 またか・・・俺はいつもと同じように自分の名前を言う。
「えと…転校してきました。野崎 冬理(のざき とうり)です・・・これからよろしく」
 全てを言い終わった瞬間、
「「「「「キャ─────!!」」」」
 女子がこっちを見て叫ぶ。何なんだよ・・・耳が痛くなるじゃねーかッ!!!
 そして、男子はこっちを見て小声で何かつぶやいてる。
「・・・おぉー転校初日からモテモテですなぁ」
「あの容姿はヤベーな。・・・男の俺でも惚れそうだわ」
 何か言ってるけど全然聞こえねぇ・・・。
 あ、申し遅れました。俺は野崎冬理。ここ、東堂学園に来た・・・いわゆる転校生ってヤツ?
 俺の家は昔から転勤族で、引越しばかり繰り返している。だから、転校なんてもう慣れたもんなんだが・・・どこに行ってもこの有様。なんなんだよッ!!!って言いたくなるくらいのリアクションをされるのが恒例。
 何?俺、どっか変なところあるのか?
 俺は自分の体や顔を手で触りながら確認する。・・・別に何もついてない。・・・なにがおかしいんだろうか?
 首をひねりながら考えていると、担任が俺に告げた。
「じゃあ野崎は・・・どこの席にしようか」
 担任が空いている机に指さしながら、悩みだす。すると、
「先生。俺の隣、空いてます」
 一人の男子が手を挙げて言う。・・・アイツ、すげぇイケメンだな。一言でいうと、“さわやか清純系”?
「それじゃ野崎の席はアイツ・・・矢部の隣だ」
「あ、はい」
 軽く返事をし、さわやか清純系・・・矢部ってヤツの隣の席に座る。
「俺、矢部 涼太(やべ りょうた)っていうんだ。よろしくな」
「おう。よろしく」
 俺があいさつすると、矢部はニヤッと笑い、こう言った。
「お前・・・可愛いな」
「は?」
 コイツ…いきなり何を?
「いやいや・・・可愛くない可愛くない。てか俺は男だぞ? それよりもお前、よっぽどモテるんじゃ?」
 俺がそう問いかけると、矢部はフッと笑い、
「まぁな。けど、お前には負けそう」
 そう言った。