「なぜボスがここに……?」


私は必死に言い訳を考えていた。

今はボスに話をさせて、少しでも言い訳を考える時間を作る必要がある。


『滅多にない機会だ。君の仕事ぶりでも見ておこうと思ってね。だがこれはどういうことだろう。……“まだターゲットが死んでいない”!』


これは不味い。

極めて不味い。

ボスは激しくお怒りの様子だが、言い訳がまったく思い付かない。

おそらく、“寝坊”では通用しないだろう。


「いえ、ボス……まさに今、殺そうとしていたところで……」


『そうか。ならば殺せ! 今すぐにだ!』


「…………了解」


もうダメだ!

殺すしかない!

逃げ道が見つからない!


私は震えながらもう一度スコープにサングラスを当て、トリガーに手をかけた。

この引き金を引けば終わる。

ソレが一番良い。

言い訳を考える必要がなくなる。


だが、私の震える指は、一向に引き金を引いてはくれなかった。

ターゲットの背中が遠ざかる。


『殺せなければどうなるか……わかるな?』


ボスが私の左頬を、冷たい何かでペチペチと叩いた。

殺せなければどうなるか?

私の左頬を必要に叩くこの冷たい何か。

コレが間違いなく、その答えを現していた。