さらには熱も出てきた気がしたので、スコープから目を離し、立ち上がろうとしたその瞬間。

私の左頬に、冷たい何かが当てられた。


『振り向くな、“へなちょこ”』


後ろから声が聞こえてきた。

私はその声に、聞き覚えがあった。

低くて甘い、男の声だ。

ちなみに私は、その声に憧れている。

やはり男たるもの、低くてセクシーな声を持っていたいものである。

これは推測だが、歌声も素晴らしいのだろう。

バラードを甘く歌わせたら、右に出る者はいないのではないだろうか。


「その声はまさか……人気俳優の“結城龍之介”では……?」


『……誰だ、そいつは』


「違う……だと?」


バカな。
これほど魅力のある声の持ち主が、彼以外に存在していたとは。

そこで私は、もう一人、似た声の持ち主の存在に思い当った。


「まさか……“ボス”では……?」


『……出来れば一発で気付いていただきたかった』


ボスが現場に現れるとは、想像もしていなかった。

これは非常に不味い状況だ。

ボスには現状が見られている。

ということはつまりだ。

……言い訳が通用しない!