ゾンビのヒットマン

呆然と、ほとんど意識がないまま歩き、気付いたときには≪ムカイビル≫の屋上にいた。

向かい側には、≪ビンゾ製薬株式会社≫が見えた。

あの会社に入れば、少しはまともな社会人になれたのだろうか。

いや、そもそも入社するコトも出来なかっただろう。


就職氷河期、とはよくいったモノで、大学を中退した私は、就職先を見つけるコトが出来なかった。

面接さえもお断り、という会社がほとんどだった。

結局2年間、私は無職の生活を続けた。

何百社も受け、ようやく内定をもらえたのが≪黒田ダークブラック研究所≫だった。

就職しなければ、生活するコトも、結婚するコトも出来ない。

どんなブラック企業だろうと、私にはここで働く以外、選択肢がなかった。


そんな≪黒田ダークブラック研究所≫もなくなってしまった。

そんな思いが、私を屋上へ向かわせたのかもしれない。




死のう。

そう思った。




そして、後頭部に銃口が突き付けられたのも、ちょうどそのときだった。

『振り向くな』と後ろから、甘くて低い声が聞こえた。