ゾンビのヒットマン

試しに黒いスーツのポケットを探ってみる。

やはり。
ビンの感触があった。

取り出して見ると、“盗むな”と書かれたラベルの貼ってあるビンだった。


「これはもじゃブタ社長にお返ししよう」


「なんだよ。一人で全部解決しちゃったよこのゾンビ。僕の発言権、ほとんど奪われちゃったよ」


「あ、ちょっと待ってください!」


私がもじゃブタにビンを渡そうとすると、グレーマスクが私の手からそのビンを奪い取った。

一瞬。

一瞬ではあったが、手が触れた。

なんだろうか、この身体が熱くなるような感覚は。

なぜもっと堂々と手を握ってくれないのだろうか。


「ちなみに私は、デートでは“恋人つなぎ”をしたい派なのだが」


「なんですか、それ。史上最大級にどうでもいい情報ですね」


なるほど、奪ったビンをそのままグレーのジャケットのポケットに入れている。

これはおそらく、デートでは“ポケットのなかで手をつなぎたい派”なのだという自己アピールなのだろう。