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埼玉県結城野市にある、3階建ての薄汚れたビル。

ソレが、昨夜の“仕事場”だった。


≪ムカイビル≫という名のそのビルは、中心部にあるオフィス街から道を一本入ったところにある。

あまり大きな声では言えないピンクの看板が並ぶ通りの一角にあり、現在は全ての階の窓に“空室”と書かれている。


私は右腕に付けた新品の腕時計で時刻を確認した。

午後8時。

新品の時計なので、時間が間違っているはずもない。

つまり昨夜、午後8時の時点で、私はまだ“人間”だった。


ちなみにこの時計はアンティーク調の、黒と金で彩られたモノで、価格は15万円だった。

私が何を言いたいか、おわかりだろうか。

そう、つまり“どうだ、羨ましいだろう”ということだ。

“仕事”の前金として頂いた15万円で買ったのだ。

どうだ、羨ましいだろう。


さて、腕時計自慢はこれくらいにしておこう。

私は仕事の時間が近付いてきたので、緩んだブラックの細いネクタイを締め直した。

ヒットマンといえば黒いスーツに黒いシャツ、黒いネクタイというのが、私のイメージだった。

とにかく、私はイメージを大切にする男だ。

全体的に黒い格好。

そう捉えていただければ、当たらずとも遠からずである。