「面白いものを見たのよ」

ニーは、光の届かない海の底で、姉たちに笑いながら、話しを聞かせる。

「また、おまえは軽はずみな事ばかりして」

姉たちに咎められても、ニーはちっともこたえない。
水中で、彼女らは自分の吐く泡の大きさを、調整しながら言葉をつくる。

「そんな事ばかりしていると、また婆に叱られるわよ」

「大丈夫よ。あたしは婆のお気に入りなんだから」

「それに、あんまり水面に近づくと、その分はやく年老いてしまうわよ」

彼女たち……人魚の生活は、海の底で営まれていた。

ここには光は僅かしか届かない。

光と時は同質のものなので、時も僅かしか流れてこない。
人魚たちの時間は、この海の底でゆっくりと刻まれている。