少女はただ、笑っているだけだった。

言葉が通じないらしい。

空気に触れた少女の声はただ、さっきの泡と違って、何か甲高い声をたてる。
『キッキッキ』と声を発して、少女は笑っている。

さっきのドーターの慌てぶりと、彼女の発する耳慣れない声が可笑しいらしい。少女は、ひとしきり笑うと少し落ち着きを取り戻したようで、ドーターをまるで、珍しい物でも見るように、しげしげと見つめると

｢ニー｣

と、一声発して、また海の底の方へ潜って行ってしまった。
ドーターは、まるで夢でも見ている気分で、海上に上がってきた。

風が、今しがた起こった出来事を、何かを確認するように、彼女の足もとで静かに舞っていた。