確かに、ドータは、
いつも風をまとっていた。


風はいつも、ドータのそばについていたので、彼女が歩くたび、彼女の髪や衣服を、はたはたと揺らし、不意に近づく者があれば、突風となって、その者にあたる事もたびたびあった。

だから、村人たちは、ドータに用のある時は、先に彼女に声をかけ、彼女が風を制したのを見届けてから、用件を話すようになった。

「おまえは、誰?」

見えない風を身にまといながら、ドータは揺れる自分の髪元に向かって、声をかけてみた。

けれど、返事はない。
そんな問いかけを、何度かしたのち、不意に、自分の行動が可笑しくなって、彼女は息を吐き出して笑い出した。

「居もしない者に、声をかけるなんて、可笑しなこと」

すると、とつぜん突風が吹いて、声が返ってきた。

―わたしは、あなたを守る者―

驚いたドータは、風の吹いた方向を急いで振り返ってみたが、姿は何も見えなかった。

「誰?」

ドータは声をかけて聞いてみたが、声はそれっきり返ってこなかった。