海婆の手当てを受けながら、ニーは周囲を見渡している。

ここは、本当に暗い。

ニーの瞳は、僅かな光でも捕らえて、暗い海底でも不自由なく見えるのに、ここだけは、目を凝らしても、あまりよく見えない。

なんで海婆は、こんなに暗い穴の中に棲んでいるのか、手当てをしてくれる、海藻のついた海婆の手を見つめながら、ニーは不思議に思った。

「おまえは、また海を昇ったね」

海婆が、咎めるような口調で、けれど静かに口を開いた。

「ええ、婆。面白いものを見たわ」

海婆は、大きく泡をひとつ吐いて呟いた

『しかたのない子』

「そんなに、海の外が気になるのかい」


「そうよ。自分でも何でだかわからないけれど、陸の上のいろんな色にとても惹かれるのよ」

ニーはそう言うと、手当ての終わった手の甲に触れてみた。傷を受けた手の甲には、薄い海草が貼られている。

「人間に、遭ったのだね」

海婆は、何かを心配するように、ニーの顔を覗き込んで聞いた。ニーの黒い瞳が可笑しそうに光っている。