海の底と地上では、時の流れに差があり、彼女たち…、通常の人魚たちは、海面に上がるのを嫌っていた。

けれど、ニーは違う。彼女は、陸上に興味を持っていた。
海の色とは違う、さまざまな色が陸上にはあった。

海面から顔を上げると、光がニーの瞳には強すぎて、最初は何も見れなかったが、最近ではだいぶん慣れてきて、長く瞳を開けていられる。

色、色、色…。

海の中の魚たちのように、空気中を泳ぐ生き物も見た。
海草よりも、長く巨大な植物も、波もないのに揺らいでいる。

そして、今日初めて見つけた、泳ぐ人間。

陸上の遠くの方を、ちいさく歩く姿は、何度か見かけていたのだけれど、こんなに間近で見たのは、初めてだった。

可笑しい。
なぜ、人間の足は泳ぐ時まで、二本別々に動かすのか。
あれでは、水面に均等にあたらなくて泳ぎにくいではないか。

ニーは、海草で編んだリボンを解いて、足を見つめた。

これだけは、姉たちとは違う。彼女たちは、海草で足を巻いたりはしない。

彼女たちの足は、魚のそれと同じものであった。

ニーの足だけが、違っていた。