宿屋に戻ると、イルグレンは自分にあてがわれた部屋で、エギルディウスとウルファンナに告げた。
「イルグレン様、どういうことですか?」
「聞こえなかったのか? 売れといったのだ。私のものは、全て」
「売ってどうなさるのですか?」
「旅の旅費にでもせよ。ファンナ、欲しいなら、そなたに全部やる。西に着いたら、アルギルスと婚儀を挙げるのだろう? 祝儀代わりだ」
「そのようなものは、頂けません!!」
 戸惑うウルファンナは、おろおろとイルグレンと主人のエギルディウスを交互に見上げている。
「美しい着物も、宝石も、全て売るがいい。私には渡り戦士と同じ衣服を用意せよ。私の馬車も要らん」
「なぜ、いきなりそのようなことを? 西へ着いた時にそのような身なりで大公宮に入ることはできません。私は、剣術を学び、腕を鍛えることは賛同しましたが、渡り戦士になれと言ったのではありません。皇族としての誇りをお持ちくださいませ、イルグレン様。失われたとはいえ、御身は暁の皇国の皇子なのです」
 エギルディウスの諭すような言葉に、イルグレンは首を横に振った。

「誇り? 身を取り繕うだけの誇りならば、捨て去るがよい。
 誇りとは、着飾った美しい姿に宿るのではない。
 破れ、薄汚いぼろを纏おうとも、己を卑下せず顔をあげて生きていけるその心に、宿るのだ」